実家の本棚の隅に、ひっそりと置かれた一冊のノートがあった。
特に存在感もないその本は、なぜかとても目を引いた。手を伸ばし、そっと取り出す。
ノートに被っていた埃を払う。古ぼけた表紙。もうボロボロだ。1ページ目を開いた瞬間、あの頃の記憶が全てが蘇った。
日本人少女「これを読んでいる人へ。こんにちは。私は25歳の日本人の女の子。人生って楽しいこともあるけど辛いこともたくさんあるわよね。ときどきなんのために生きているのかわからなくなる。あなたにはそんなことない?あなたはなんのために生きてるの?教えてほしいな 🙂 」
5年前からしばらく働いていた京都のホステルの本棚の一角に、ひっそりと眠るように置かれていたノート。退職したときにこっそりと持ち帰り、そのまま実家の本棚に眠らせていた。
そのページたちには、開く度に世界中の旅人からの新たなメッセージが書き足されていっていた。
「おい!人生は1回しかないんだ!無駄にするな! Grootより」
「愛のために生きてる」
「旅だね。今は誰でも飛べるのよ」
「過去が今の私たちをつくってる。やりたいことや願い事がたくさんあったけど、忘れられたものや変わっちゃったものもある、でも叶えられたものもある。期待通りにならない人生って面白くない?長らく会っていなかった昔の友人と、日本にくる途中の空港でばったり会ったりね。言語の壁に阻まれながら、会話を楽しんでみたり。明日は何があるのかな?二本の足で立てて、心臓動いてたらそれでいいじゃん!顔あげなよ! 27歳のカナダ女子より」
日を追うごとに素敵なメッセージで溢れ返っていった。
世界中からのメッセージを読むことが、当時の私の日課になっていた。
「人生の意味とは奉仕だ。人生の価値は与えること。from Taiwan」
「あんたの人生、あんたが決めなよ。まあ、笑って、酒飲んで、マリファナ吸って、めっちゃ楽しんで、とにかくヤれたらそれでよくね?
とりあえずあんたが本当のあんたでいられる友達作りな!28歳のアルゼンチン人、ナザより」
「こんにちは、僕はメルボルン在住の18歳。犬と散歩してる時間と、寝る時間が好きです。寝ることがとても得意!!高校をちょうど卒業してもうすぐ大学が始まります。人生楽しみすぎるーーー!!大阪で出会った男が言ったんだ。『社会にのまれるな!』ってね。だからそうやって生きてみます!あなたもそうしてみたら?もしよかったら!」
「僕はJames、21歳のアメリカ人。僕は人のために生きてる。僕の夢は、世界中の人たちを助けるための、何かきっかけをつくること。悲しいときとか、むかつくとき、僕が助けるべき人たちのことを考えるようにしてる、自分自身が前を向けるようにね。自分で選んだ道をちゃんと進めるように。のんびりいこう!」
「生きることは、幸せを人と分け合うこと。他の人の幸せを感じること。今、僕は自分の想いをあなたにシェアできて、とても幸せです。24歳の香港人より」
「世界は悲しいけど、美しいね。僕が生きる唯一の理由は、世界がどれほど美しいものなのか見て、シェアすること。-幸せは共有されて初めて本物になる-」
「たくさんの想いで溢れた面白いノートね!私も読みながらいっぱい考えてみたわ。そしてただ伝えたい。私たちはただ生きてる、それだけ。宇宙から見たらゴミみたいなもんよ、私たち。いつもハッピーに笑ってたらそれでいいんじゃない? 韓国の女の子より」
「おいお前たち、人生とは出会いだ。そして俺は日本で素晴らしい人々に出会えたよ! チュニジア人より」
「全部どうでもいいよ!ただあんたがやりたいこと、やりたいときにやれよ。下手な説明なんていらねーよ。そしたらあんたは自由になれるよ」
このノートを読み返したのはいつぶりだろう。最後に開いた日はもう覚えていない。でもこのボロボロのノートを見つけたとき、一生持っていたいと思った。
世界の旅人たちがシェアしてくれた、ここには書ききれないほどのたくさんの想いたち。
Dear Japanese girlから始まる優しい文字たち。
1ページには収まりきらない溢れる想いたち。
このノートをここにおいた日本人の女の子にみんなの想いが届いていますように、とただただ願う。
私の生きる目的って?改めて考えてみる。この数年でなんとなく見えてきたものがある。
いつかそのときがきたら、私はきっとまたこのノートを開くのだろう。私の宝物だ。
あなたの生きる目的はなんですか?